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14 . July
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18 . April


いつも爽やかであるはずのある日の朝は、ひどく騒がしかった。
学業所へ向かっていた由子は、そこまでの道のりでその騒ぎを目にした。
手には鞄、パンツスタイル、いつもの格好だった。
一瞬、なんだろう、とは気に留めたがすぐにどうでもよくなった。
彼女の頭は二つの事を同時に考えるには少々足らないからだ。
常に彼女の頭には一つの議題が挙がりっぱなしのため、ほかの物はたいてい入り込むことはできない。
それが由子の日常だった。
自分で自分を嫌いになるほどの何も無い日常だった。
「あ、由子。おはよう」
「おはよう」
学業所へ入るとまず一番に挨拶してきたのは髪を二つに結った地味な顔立ちの女子だった。名前は必要ないので覚えていない。
友人だと認識したこともないがあちらはそう思っているだろうし、自分もどこかでそう思いたい自分がいるのを知っていたので特に拒絶したことは無かった。ただし自分からは何もしないが。
「ねえ」と二つ結いの女子が言う。「朝の騒ぎ、聞いた?」
なんのことだろう、と由子は首をかしげ少し考えた後、ああ、と思い出した。「朝見たよ」
「本当!?ねえ何見た?」
〈何も、〉と思った。「何も」
本当に何も見ていない。あったことすら忘れていた人間が何故覚えていようか。
「え?見てきたんでしょう?」
「横を通ってきただけだから。人だかりしか見えなかった」
「あーなんだそっかー・・・」
〈話を続けるには、〉と由子は考えを巡らせた。質問をすればいい、そうすれば相手は勝手に話し続ける。
「騒ぎって何だったか知ってるの」
「えっ知らないの!?実は今日の朝」
完璧だ、と由子は思った。完璧だ。
「聞いてる?」
「聞いてる」
「その騒ぎなんだけど、なんか死体が出たんだって。路地裏で」
「路地裏。」
「そう。漫画みたいで笑っちゃうよね。」
可愛そうに、と由子は思った。几帳面に結ばれた二つの髪の束を見ながら、お前たちの守っているものはとても陳腐だ、とも思った。意味が無いと判っていて行う行為は惨めなものだ。人の命というのは思ったより余程重い。目の前にいる女はそれをわかっていない。人の死を笑うなど、視界に移る範囲しか見えない人間のする事だ。
「死体は高島だったらしい」
「!」
高島。由子は繰り返した。確かに目の前の女はそう言った。高島、高島、高島・・・・。確かその男は。
「大変だよねーどうするんだろう、あの人の会社、貿易輸送だったでしょ。この国もどうなるのかなぁ」
「高島・・・・」
「でね、その高島の死体なんだけど」二つ結いの女子がそう続ける。「おかしかったんだって」
「おかしかった?」
「そう」どこか神妙な顔つきで言葉をつなげた。

首は外傷一つないのに、首の脈が切れて死んでたんだって。」

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