星が強く照り輝いて眩しい程の夜には、ナイフが妖しくも美しく光る。
これにあの鮮やかな液体が付着するとさぞ綺麗だろうと矢萩は考えたが、すぐに取りやめた。もう一度獲物を構えなおす。
「お前・・・・・『番』か」
「おしい」いや、実際にはおしくも無いのだが 「でもあながち間違って無いかも」
「何度来ても無駄だ、証拠なんざ見つかりっこないんだ」
「よく聞いてる。うまいことやってるじゃない、どうやってんのか教えてよ」
「とっとと失せろ。お前に構っている暇は無い」
「寂しい事言わないでよ。俺だって暇じゃない。お互い我慢が大事だ」
「このまま私を拘束していてみろ。部下が飛んでくる。お前の首を飛ばす為にな」
「オイきいてんのか」
「今日はこの後大事な会合があるんだ、放せ」
「おーい」
「証拠が欲しいなら山下にでも行くんだな」
「聞いてる?二回目」
「私を構っている暇があったら、どこかを『夜』から救えるのではないのかね」
「俺さぁ」 キラリ、と煌く。 「嫌いなんだよね、話噛み合わない奴」
ブチン、と小気味良い音がして、続いてどさりと倒れこんだ。
それはさっきまで肝の座った白髪交じりの男だったものだったが、どうしたことか今は1mmも動く気配が無い。血は流れていない。
少しの間、矢萩はそれを哀れむ目で見ていた。手の中の獲物からは、星明りに煌く赤黒い液が滴っていた。
やっぱり綺麗だ、と呟きながらも液を振り払う。不思議と獲物は次の瞬間に消えた。
路地裏から更なる裏へ入り込む道へ踏み込む足取りは軽くもしっかりと大地を掴んでいた。
残された白髪交じりの男だったものは、少し前まで食べ物の入り口だったところからあの綺麗な液を零していた。
それはどの宝石にも例え難く、どの値の張る洋酒よりも美味でありそうで、どの世界で見ても気味の悪いものだった。